わさび漬(BU製法)

作成:2016/02/10

更新:2018/05/10

 

わさび漬といえば全国的には静岡のそれが有名で、所謂「粕漬」になります。一方、中国地方で普通わさび漬と言えば、醤油漬です。まず塩で揉む人、熱湯をかける人、それらを組み合わせる人・・・。その製法は各家庭の味、ワサビ農家の数だけあると言って良いでしょう。

 

ところで「ぶちうま」とは中国地方の方言、「ぶち(=とっても)」+「美味い」の造語です。そして、BU製法とは、ぶちうま製法をダイゴ風に呼称したものです。ネーミングはふざけていますが、製法自体は至って真面目なものと自負しております。というのも、複数の論文を読破し、科学に裏付けされた根拠だけを手順化したからです。そしてこのBU製法の一番の要は温度管理、「70℃」という水温を厳格に守って加工することがポイントです。また、辛味や香味成分の揮発を防ぐ為に、他に細かい工夫等もあります。詳細は下記をご覧ください。

 

さて、本コラムで何度も言及されている通り、わさびの辛味・風味は次の化学変化で生成されます。つまり、わさび細胞内のシニグリン(苦い)が、細胞が破壊されることによって、細胞内の他の部分にあったミロシナーゼという酵素と出逢うことによって化学変化が起こります。その結果、アリルイソチアネートというシャープ系の辛味成分に加え、糖分他香味成分を作り出します。

 

一方、このミロシナーゼの働きは80℃度を超えると、弱まるのです。一方でこの手の技術も注目されています。これが温度管理を徹底させることの根拠となります。

http://www.steaming-cook.com/

> 低温スチーミング(70℃蒸し)をすると、なぜあらゆる食材が美味しくなるのか。栄養価が高まり旨みが増す等々・・・さまざまな利点がいます。

尚、加熱する目的は、他に以下も挙げられます。これはブリーチング(下ゆで/通常調理70~80%程度の軽い熱処理)のそれ(以下1~3)と、ほぼ重なります。

  1. 野菜に付着している微生物を殺菌する。
  2. 野菜に含まれている酸化酵素の働きを不活性化させて、貯蔵中の品質の低下や変色を防ぐ
  3. 加熱する事により、組織が軟化し、細胞が壊れやすくなる。
  4. 発色が良くなりワサビが美味しそうになる(但し2日間しか持続せず、その後徐々に茶に変色する)。

<BU製法準備>

  • 器具:深鍋、菜箸(トング)、温度計、大ザル、片手ザル(あれば)、ボール大、ボール小、スピナー、薄手のポリエチレン袋
  • 食材:ワサビ、醤油、砂糖(お好みで)、みりん(お好みで)

<BU製法手順>

1. 鍋に水を張って加熱する。
2. ボールかシンクに水を張って、葉ワサビ(花ワサビ、ガニ芽)を洗浄する。この時、枯草などのゴミを適宜取り除くこと。

3. ワサビを大ザルに一旦上げる。この際サイズを選別し、複数のザルに上げても良い。これは、異なるゆで時間が調整しやすいこと、後でカットする作業が合理的になる為である。また、ボール大に(冷)水を張る。

4. 鍋の湯が73度になったら火を止める。

5. ワサビをひとつかみ(約100g)鍋に投入し、菜箸で沈め、約15秒/30回程度かくはんする。ワサビに熱が奪われ、約70度まで下降する。

6. (片手ザルで)ワサビを手早く取り出し、ボール大の水に漬けて冷やす。

7. ワサビを上げ、スピナーを使って水を切る。また、洗浄したワサビが無くなるまで、手順4~7を繰り返す。

8. ワサビの細胞を壊す様に強くもむ。但し、手順9.の袋に入れてからでもOKだが、その場合、強すぎて袋に穴を開けない様に注意する。

9. 薄いポリエチレン袋にワサビを入れる(小分けする)。量は一食で食べきれるほど。2人家族であれば100グラムあれば良い。

10. 調味液を入れて混ぜ合わせる。わさびには元々ほのかな甘みもあるが、好みで味醂か砂糖も加える。

10.袋をボール大に張った水に半分沈めながら、袋の中の空気を抜く。袋の中に水が入らない様に注意すること。

11. 袋を縛った後、冷蔵庫で半日以上保管する。食べ頃は24時間後。冷蔵庫で30分以上保管する。食べ頃は好みだが、24時間以内に食べる切る様に心がける。もし辛味を楽しみたいのなら加工直後(1時間後?)くらいが良いようだ。それから時間の経過とともに調味料の味が馴染んでくると同時に、その一方で辛味が揮発し、今まで辛味でマスクされていた風味が表に活きてくる印象がある。さらにそれから3日かけてどんどん不味くなるので、食べきれない場合はガラス瓶やタッパ等の密閉容器に写してから冷凍すること。尚、密閉を怠ると、辛味と風味が揮発しまい、もっと賞味期限が短くなってしまう。因みに、ワサビには強力な抗菌作用があるので、「消費」期限は1か月大丈夫である。但し美味しいとは言えない、むしろ不味くなる。

12. 冷凍した際の解凍は、ビニールに水が入らない様にしながら流水中で行うこと。因みに電子レンジを使うと辛味と香が飛ぶので推奨しない。

<参考文献>

  • 酵素量のコントロールによるすりおろしワサビ中のアリルイソチオシアネート保持技術http://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/122619.pdf
  • イソチオシアネート含量の測定方法
    http://astamuse.com/ja/published/JP/No/2011122950
  • 辛味および風味の長期間保持可能な香味食品の製造方法 金印わさび株式会社http://astamuse.com/ja/published/JP/No/2001136930
  • 椙山女学園食育推進センター 客員センター員 中野 典子、わさびの辛味成分と調理
    http://ir.lib.sugiyama-u.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/309/1/NATURAL_30_111_121.pdf
  • ワサビの保持栽培に関する研究
    http://kankyo.u-shizuoka-ken.ac.jp/column/26/column_26.htm