わさびは金気を嫌う?
作成:2016/02/15
更新:2017/10/09
以下の様な指摘があります。鮫皮おろしメーカーの都合のいい様に、情報を流布しているだけの可能性があります。
また、以下の様な記述も転がっていました。上記の宣伝をそのまま鵜呑みにして少々アレンジを加えた、との意地悪な推測もできます。
さらに、信頼のおける出版社をソースにしても、この様な記載がありました。
> 「ワサビ」-「調理での活かし方」-「調理素材としての特徴」
> 金気を嫌う食材で
> 執筆担当 谷洋子(仁愛大学人間生活学部教授?)
さて、ネットを検索すると以上の様な「わさびは金気を嫌う」という言葉が拡散し、それが通説として定着している模様です。これについていささか乱暴ですが持論を推測展開します。以下、結論から言います。
- ワサビは金気を嫌う「可能性」があるにすぎない。
仮に嫌っても、その程度は微々たるもので、ほとんど気にする必要がない。 - むしろ、金気によるわずかな悪影響を排除することより、
金属製を採用することによる生産性向上の方が、はるかに恩恵がある。
さて、一般におろし器の材質には、以下8種類が挙げられます。高級品の鮫皮は江戸時代から使われていると云われています。地元匹見では、かつて農家が石を使ってすりおろしていたと聞きます。大昔から陶器や瓦があったので、セラミック製もかなり前からあったことが推察できます。因みに竹は目が極端に荒く大根しか使用されないので、ここでは無視します。
- 鮫皮
- 石
- セラミック
- 竹
- 銅
- アルミ
- ステンレス
- プラスチック
金属製おろしは工業化が進んだ、比較的最近になって普及しました。専ら筆者の推測ですが、「わさびは金気を嫌う」という言葉が生まれた背景として、こんな理由が挙げられます。
- 当初は目の荒い刃の物しか製造できず、おろしの品質が悪かった。一次的には細胞の破壊が不十分で、酵素反応が促進されず、二次的にはおろしがクリーミーに仕上がらず表面積が多くなり、結果として辛味・香気成分が早く揮発してしまった。
- 金属製スプーンが舌に触れると料理が不味く感じることから、類推されてしまった。
- 鮫皮おろしの製造者が売上増を企んでネガティブキャンペーンをした。
どの理由もなんだかしっくりきません。そこで、この言葉を別の表現に言い換えました。以下のいずれか、あるいは両方が該当することでしょう。
- 金属はミロシナーゼの活性を低下させる。
- 鮫肌はミロシナーゼの活性を上昇させる。
後者についてエビデンスを発見できませんでした。しかし、前者については以下の様な推測が存在します。
わさびの辛味成分と調理、椙山女学園大学研究論集 第30号(自然科学篇)、椙山女学園食育推進センター 中野典子、1999
> ミロシナーゼが金属イオンによって阻害されるためと推定される。この点についてもさらに比較検討が必要と思われる。
早速、中野典子先生に直接連絡をとって確認をしました。残念ながら、もう研究は継続していないとのことでした。つまり、推測の域を出ていないのです。以下の様な論文もヒットしましたが、その読破は困難なうえ、私自身語学力・学術的知識が不足しているので、理解できないのです。しかしながら、表題からして相関関係がありそうな期待が持てます。
(ミロシナーゼ活性における金属イオンの影響とブロッコリー種子におけるスルフォラファン形成)
一方、以下資料から、アルミはともかく、銅とステンレスの「イオン化傾向」は弱いものと理解できます。この「イオン化傾向」は金属イオンを生じる傾向を評価したものです。つまり、仮に前述の論文で相関関係が証明されても、この傾向が弱いということはミロシナーゼの活性低下も僅か、と考えられるのです。
ステンレス協会 ステンレスと異種金属との接触についての問題点
> 貸(K)そうか(Ca)な(Na)、ま(Mg)あ(Al)当(Zn)て(Fe)に(Ni)す(Sn)な(Pb)。
> ひ(H)ど(Cu)す(Hg)ぎ(Ag)る借(Pt)金(Au)」
> ステンレスは合金ですから、イオン化列には見当たりませんが、イオン化列に当てはめますと銅(Cu)と同じくらいです。
さて、金属製はおろす作業の生産性が極めて高いです。鮫側と異なり、両方向に刃があるからでしょうか。感覚的にはおよそ3倍、肉体的にも精神的にも、ストレスはありません。したがって、必要な時、必要なだけ、こまめに作業がでます。Just In Time、常に美味しい状態のワサビが用意できます。鮫皮でおろしたワサビは確かにおいしい。鮫皮装飾品に使われ、美術性もある道具としてかっこいい。でも、私はこの以上に挙げた金属製から得られる利益を優先したいのです。ワサビを美味しく食べる為にも。
追伸
高級品である生ワサビは特別な日に食べる物。したがって、それをおろす道具も日常的に使うものではありません。なので、生産性を無視するのも十分ありだと思います。なので、オーベルジュわさびでは、鮫皮タイプしか販売していません。特別な食材は特別な道具で。墨汁ではなく、炭を擦ることから入る習字の作法がごとく、鮫皮だと「美味しく感じる」ことができます。なんだかんだ言っても、「その人が美味しく感じる」ことが一番大切なのですから。
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以下メモ
ワサビと調味料
ワサビの辛味を増す手段として、以下のいずれかを添加する方法が経験的に知られている。これらについて検証したい。
1)アスコルビン酸(ビタミンC)
2)砂糖
3)酒
酵素が最適に働く環境
http://eiyouryouhou.jp/index.php?酵素が最適に働く環境
酵素活性が最大化する至適温度
酵素が最大の速度で反応を行える環境は、37度前後と言われている。
酵素が最も高い活性を示すpHを至適pHと言う。
→調査中
漬物製造における砂糖の位置付け
最終更新日:2010年3月6日
全日本漬物組合連合会常任顧問
宇都宮大学名誉教授 前田 安彦
https://sugar.alic.go.jp/japan/shiten/shiten0912a.htm
野菜の細胞は細胞膜に囲まれ安定した組織構造になっている。
これが食塩、砂糖などの溶液に触れるとその浸透圧で構造が攻撃を受け、
細胞膜の防圧機構が破壊されて内からも外からも通じる膜に変化する。
食塩が辛みを増加させることは、以下論文でも確認されています。
●ミロシナーゼ活性に対する食塩の影響とアブラナ科野菜の漬物加工への応用
http://www.saltscience.or.jp/general_research/2011/201145.pdf
> ミロシナーゼ活性におけるNaClの影響について・・終濃度約1%の活性が1.3倍に上昇し、その後活性が低下することが示された。
> 「伯方の塩」や「沖縄の塩」といった、食用塩についても終濃度1%前後で活性が1.2~1.25倍増加させることが明らかになった。
> 0.1%のアスコルビン酸がミノシラーゼ活性を約3倍上昇させることが示された。
> Naclとアスコルビン酸の相乗効果を検討したが、顕著な効果は観察されなかった。
終濃度1%なら若干効果が認められるが、濃すぎると逆効果である。食塩は重さを測って正確に投入すべき。
・ワサビ漬を創る際には、重量を正確に測って
・すりおろしワサビの重量を正確に測ることは困難なので、おろし前の
※かかる手間に対して得られる利益が希薄
※醤油を使わない時(塩わさび)として
両方試すことは意味が無い。添加物を
醤油については北大路魯山人の言葉が通説です。
「しょうゆの中にわさびをいれてしまっては辛味はなくなる」と。
そして、私の官能試験もこの説を支持しています。
揮発することにより香味・辛味成分が鼻に抜けた